Mariage A la Mode in 1745

人間の生と死、欲望、愛情、悲しさ・・・6枚の絵画の細かい描写から当時の人間模様を見ることの出来る作品です。富では、「愛情」も「幸福」も買えないと言う事を伝えているのでしょうか。現代にも同じような事件がありますが・・・これは18世紀の出来事です・・・

The Marriage Settlement
一枚目のタイトルは、"結婚契約"   破産した伯爵の息子と成金商人の娘の政略結婚を決める場面です。場所は 伯爵家。伯爵は一番右の人物で、右足に痛風をわずらっていて杖を持っています。伯爵の名前の "Squander"、これは英語では浪費という意味で、絵の内容に関係して面白いですね。向かいの席は欲深い成金の父親、両親の間には弁護士。左の方に将来の妻にはまったく関心を示さず、自分の姿を鏡で眺める伯爵の息子、そして、そっぽを向く娘が描かれています。彼女にささやきかけるのは、若い弁護士で、彼は続く作品にも登場します。部屋の壁の絵画にもいろんな意味が・・・子爵と娘の真ん中、上部の壁にかかっているのは、ギリシャ神話の妖怪メデューサの顔・・・後の怖ろしい結末を暗示しています。

The "Tete a Tete"
二枚目の場面は、貧乏子爵と成金娘の新居です。
子爵と成金の娘の結婚生活は、すでに破綻状態の様子。時間はもう昼過ぎですが眠そうな2人。(壁の時計を見て!)そして部屋の中は散乱状態です。夜遊びで疲れて家に戻った子爵のポケットからのぞく女性物の帽子(覚えていてね)を犬がかぎつけています。夫人は眠そうに、あくびしています。夜通しパーティがおこなわれていたのでしょう。散らばるカード類。執事が請求書の束を持って部屋にきますが、散らかった部屋と2人の様子を見てあきれた表情。彼らの生活を上手く描写していますね。隣の部屋の絵画には、片方の足だけの不可解な絵が描かれています・・・

The Inspection
三枚目は、医者の部屋。子爵は乱行を重ねた末に、性病に冒されて医者を訪ねています。彼は右手に薬の入ったケースを持っています。 薬のケースは、子爵の椅子にも、そして隣の女の子の手にも握られています。 この女の子の帽子のリボンは、第2作で子爵のポケットからはみ出ていたものと同じです。分かりましたね? そう、彼女は子爵の愛人です。 まわりに描かれているものは暗く、どんよりした雰囲気で不気味さが伝わります。

The "Toilette"
四枚目は、若伯爵夫人の寝室です。伯爵が亡くなり、若子爵夫妻は伯爵夫妻となりました。彼女のベットの天蓋部分と化粧台の上に載せられている王冠がそれを示しています。夫人は自分の部屋に客を招いていますが、彼女は客に背を向けて、弁護士(第一話にも登場している)の熱心な誘いに夢中です。弁護士は舞踏会の絵を指し示して夫人を誘っています。伯爵夫人の椅子の背には珊瑚色のロープがかかっていますが、これは当時、子供の歯磨きに使った物です。ということは、夫妻には子供がいることがわかりますが、子供はそっちのけでお楽しみ中ということですね。右にいる黒人の給仕の男の子は、Actaeon(アクティオン)を持っています。このアクティオンはギリシャ神話の中で、水浴中の 女神ダイアナの裸身を見た罪で鹿に変えられ、連れていた猟犬にかみ殺されるという人物です。これは今後の運命の暗示かも・・・
この部屋の壁の4枚の絵は、右側に“ロトと娘達”、“ジュピターとイオ”、左側には"弁護士の肖像画”と“ガニュメデスの誘拐”があります。ホガースは作品にもっと意味を持たせるために、これらの絵を描き入れたのでしょう。

The "Bagnio"
五枚目は、事件の現場が描かれています。
前作で弁護士に仮面舞踏会に誘われていた伯爵夫人。弁護士と伯爵夫人は舞踏会からの帰り、道宿に入りました。床には仮面や衣装が散乱しています。そこへ、2人を後からつけていた伯爵が部屋へ踏み込み、もみ合った末弁護士に刺されてしまいます。騒ぎを不審に思った宿の主人と警官が部屋に駆けつけたため、弁護士は慌てて窓から逃げ出しました。部屋の中には刺されて瀕死の状態の伯爵と、おろおろし許しをこう伯爵夫人の姿。弁護士の逃げた窓からは夜風が入り、部屋のろうそくの火が揺れているのが不気味で悲しげです。

部屋の後ろの壁には大きなタペストリーがかかっており、そのタペストリーには“ソロモンの審判”が描かれています。(壁の絵画の下)“ソロモンの審判”は旧約聖書の一場面。同 じ家に住む二人の娼婦がそれぞれ子供を産むが、片方の娼婦が誤って子供を窒息死させてしまう。もう片方の娼婦の子供と自分の死した子供と取り替えたため、 娼婦らの間に争いがおきる。彼女らが法廷に訴えると、生きている子供を剣で斬り半分づつ分けるよう命じたソロモンが、片方の娼婦はそれに同意する姿を、も う片方の娼婦は子供を生かしてくれるよう懇願する姿を見て、本当の母親(懇願する娼婦)を見抜いたとされるストーリです。

The Lady's Death
そして6枚目、ついに当世風の結婚の物語は結末へ。弁護士に刺されて死亡した伯爵。その後伯爵夫人は実家に戻りました。そこで、殺人の罪で弁護士が死刑になったことを知り、彼女は毒を飲んで自殺を図ります。彼女の足元には弁護士の死を知らせる新聞と毒の入ったガラス瓶が。夫人の周りには、彼女にすがる娘(片足が義足?ソロモンの審判を考えると子供は伯爵の愛人の子供かな?2作目の片足だけの絵を覚えていますか)と娘を抱く老メイド、指から結婚指輪を抜き取る父親の姿。(その指輪を売るつもり?なんと強欲な親でしょう)夫人がもう死んでいることは、左のドアから出て行く医者の姿で読み取れます。

破産した伯爵家へ娘を嫁に出した父親の生活も、部屋の様子を見ると落ちぶれたようですね。質素な生活をしていたことが伺えます。欲を出しすぎたばかりに、幸福とはほど遠い結末を迎えてしまった。何とも悲しい話です・・・・・・窓の外にはロンドン橋が・・・



『当世風の結婚』全6枚
William Hogarth(ウィリアム・ホガース1743年頃の作品)ロンドン、ナショナルギャラリー所蔵

The Marriage à-la-mode  painted in 1743 - 1745...